東京高等裁判所 平成6年(ネ)5172号 判決 1995年12月18日
控訴人
吉田武明
右訴訟代理人弁護士
石黒康
同
中園繁克
同
小林美智子
被控訴人
朝日九段マンション管理組合法人
右代表者清算人
川村善次
右訴訟代理人弁護士
井堀周作
同
小澤治夫
主文
一 原判決中、第一事件の別紙本件決議(一)2の決議無効確認請求に関する部分を取り消す。
別紙本件決議(一)2の決議が無効であることを確認する。
二 控訴人のその余の控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
(一) (第一事件)
平成元年二月一九日開催の被控訴人の定期総会における別紙本件決議(一)記載の各決議は無効であることを確認する。
(二) (第二事件)
(1) 主位的請求
平成二年三月四日開催の被控訴人の定期総会における別紙本件決議(二)記載の各決議は存在しないことを確認する。
(2) 予備的請求
平成二年三月四日開催の被控訴人の定期総会における別紙本件決議(二)記載の各決議は無効であることを確認する。
(3) (第三事件)
控訴人が被控訴人の理事長であることを確認する。
昭和六三年七月三日開催の被控訴人の臨時総会における別紙本件決議(三)の決議は無効であることを確認する。
2 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 本件事案の概要
一 本件事案の概要は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄(「理由」と表題にあるのは「事実及び理由」の誤記と認める。)の第二項の「事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二枚目裏六行目全部及び同七行目の「1」を削り、同八行目の「平成元年二月一九日に解散した」を「平成元年二月一九日開催の定時総会において解散決議がなされた」に改め、同九行目末尾の次に行を改め、「(第一事件)」を加え、同一〇行目の「2」及び同一三行目の「3」を削る。
2 同四枚目表九行目の「2」を「2及び7」に、同一〇行目の「瑕疵があるほか、」の次に「本件決議(一)の賛成票の中には」を加え、同一一行目の「可決要件を満たしておらず、」を「可決要件である区分所有者及び議決権数の四分の三以上の多数の賛成票数に達しておらず、」に、同六枚目表七行目の「鮎沢享弐」を「鮎沢享弍」に、同八行目から同九行目にかけての「被告管理法人の解散、」を「被控訴人である管理組合法人の解散のほか、区分所有の専有面積比割合で議決権を算定する旨定めていた規約を所有戸数や専有面積にかかわらず一組合員一票の議決権を有するものと変更するなど、区分所有者の権利に直接影響する内容の」に、同裏四行目及び六行目の各「川村」を「被控訴人代表者である川村理事長」に、同八行目の「同年五月一五日本件訴訟を通じ」を「被控訴人に対し、同年五月一五日に東京地方裁判所に提出した本件訴訟の訴状(被控訴人に同年六月一七日に到達)をもって」に、同一〇行目の「依頼に基づいて」を「代理人として」にそれぞれ改める。
3 同八枚目表二行目の「また、」から同四行目末尾までを「規約四条三項において、議決権は代理人によって行使できると規定され、議決権行使の代理人資格についてはなんら制限を設けていないのであるから、右規則五四条一項が代理人資格を制限する規定であるとすれば、規約五五条によって規則事項とされている『規約に定めない事項』の範囲を超えるから無効である。」に、同五行目の「規則五四条一項追加前の被告の」を削り、同七行目の「代理人資格についての制限はなかった。」を「代理人資格に制限をもうけていない。そして、昭和六二年一一月一日に追加された」に、同一一行目の「必要あるところ、」の次に「右規則制定の際に」にそれぞれ改め、同裏一一行目の末尾に行を改め、次のとおり加える。
「7 本件決議(三)の無効(当審において控訴人が付加した主張)
本件決議(三)は後記のとおり無効であるから、招集権限のない者が招集した本件総会(一)における本件決議(一)は無効である。」
4 同一二行目の末尾の次に行を改め、「被控訴人は、次の1のとおり訴えの却下を求め、控訴人は2のとおり主位的に本件決議(二)はすべて不存在である旨を主張し、予備的に3、4の手続的瑕疵の理由により右決議(二)はすべて無効である旨、5の理由で右決議(二)3はその内容において無効である旨、6の理由で決議(二)4は無効である旨主張する。」を、同九枚目裏四行目の冒頭に「前記のとおり本件決議(三)の無効により本件決議(一)も無効とされる結果、本件総会(二)の招集も権限のない者によってされたことになる。また」をそれぞれ加え、同九行目の「川村は」を「被控訴人代表者清算人の川村は」に改める。
5 同一一枚目表一三行目の「無効票」を「一五の無効票」に、同行の「一七の反対票」の次に「(瀬尾和也五票、小高康夫三票、控訴人九票)」を加え、同裏一行目の「とどまり、」の次に「第一号議案の」を加え、同行から同二行目にかけての「を満たしていない。」を「である議決権数(六五七票)の四分の三である四九三票以上の賛成票が得られていないから、右議案は可決されていないことは明らかであるうえ、」に、同行の「決議の瑕疵」を「本件決議(二)のすべての決議の瑕疵」にそれぞれ改め、同八行目の「代理人資格のない」の次に「非居住者である」を、同一二枚目表一行目の冒頭に「控訴人主張の無効票は、次のとおり有効な賛成票であり、また、」をそれぞれ加える。
6 同一三枚目表七行目の「移転する。」を「移転するのであるから、本件決議(二)3は、当然のことを確認した決議にすぎず、有効である。」に改め、同裏一行目冒頭から同二行目末尾までを「平成元年一一月一二日は、管理組合とともに被控訴人も臨時総会を開催しており、被控訴人の臨時総会において監事の選任決議がなされた。」に、同三行目の「臨時総会が被告の臨時総会でなかったとしても、」を「右選任決議が被控訴人の臨時総会においてなされたものではなかったとしても、」にそれぞれ改める。
7 同六行目末尾の次に行を改め、「被控訴人は後記1のとおり控訴人の訴えの却下を求め、控訴人は、後記2のとおり、本件総会(三)において行われた控訴人の不信任決議は組合員の錯誤に基づく議決権行使によるもので無効であるから、これを有効と誤信した控訴人の辞任の意思表示も無効である旨、後記3のとおり、本件決議(三)は、その前提である控訴人を含む理事の辞任の意思表示が錯誤により無効であるから、当然無効である旨主張する。」を加え、同一三行目及び同一四枚目表一行目の各「本件決議」を「本件決議(三)」に、同四行目の「本件選任決議」を「本件決議(三)」に、同一一行目の「本件総会」を「本件総会(三)」に、同一五枚目表一二行目の「姓名」を「姓」に、同一六枚目八行目の「不信決議」を「不信任決議」に、同一一行目の「本件総会」を「本件総会(三)」にそれぞれ改め、同裏五行目から同六行目にかけての「総議決権数」の次に「(四一五票)」を加える。
第三 争点に対する判断
一 第一事件について
第一事件については、次のとおり補正、付加するほかは原判決一七枚目裏八行目から同二三枚目表二行目の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一七枚目裏一〇行目の「あるところ、」の次に「本件総会(一)の後である平成二年三月四日開催の」を加え、同一二行目から同一三行目にかけての「管理組合においては」から同一八枚目表一〇行目の「失われていない。」までを次のとおり改める。
「本件総会(一)において本件決議(一)がなされ、被控訴人が解散したことにより、後記第二事件に関する判示部分(二2(二)(3))において説示するとおり、朝日九段マンションにおいては、区分所有法三条所定の区分所有者全員による団体としての管理組合が復活し、本来の管理活動を行うことになるものであるが、他方、被控訴人である管理組合法人も、清算手続が終了するまでの間は、清算のみを目的として存続し(区分所有法五五条三項、民法七三条)、両者は法的には別個独立の存在として併存することになる。したがって、管理組合における議決権の算定方法に関する規約が専有面積比となっていても、被控訴人の規約にはなんら影響を及ぼすものではない(現に、管理組合の平成二年三月四日開催の総会において、議決権の算定方法に関する規約について、所有専有部分の床面積の割合で計算する方法に変更する旨の決議がされた(第一、第二事件の乙五)にもかかわらず、同日開催された被控訴人の本件総会(二)では、組合員一人一票との算定方法に則って採決している(同乙三。)。そうすると、被控訴人の右規約の改正の効力を争う利益は未だ失われていないことは明らかというべきである。
2 同一八枚目裏一行目冒頭から同一九枚目裏二行目までを次のとおり改める。
「総会の招集通知においては、通常は、その目的たる事項(議題)を示せば足りるが、規約の改正等一定の重要事項を決議するには、そのほかに議案の要領をも通知すべきこととされているところ(区分所有法三五条五項)、右の趣旨は、区分所有者の権利に重要な影響を及ぼす事項を決議する場合には、区分所有者が予め十分な検討をした上で総会に臨むことができるようにするほか、総会に出席しない組合員も書面によって議決権を行使することができるようにし、もって議事の充実を図ろうとしたことにあると解される。右のような法の趣旨に照らせば、右議案の要領は、事前に賛否の検討が可能な程度に議案の具体的内容を明らかにしたものであることを要するものというべきである。
これを本件についてみるに、本件総会(一)の招集通知には、本件決議(一)2に対応する第五号議案として、「規約・規則の改正の件(保険条項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項)」と記載されているにすぎないところ(当事者間に争いがない。)、右をもって議案の内容を事前に把握し賛否を検討することが可能な程度の具体性のある記載があるとは到底いうことができない。
そうすると、本件決議(一)2の決議事項については、議案の要領の通知に欠けるから、その決議には区分所有法三五条五項所定の総会招集手続に違背した瑕疵があるといわざるを得ない。そして、右議案の要領の通知を欠くという招集手続の瑕疵がある場合の決議の効力について検討するに、法が議案の要領を通知することとした趣旨は前示のとおりであるから、議案の要領の通知の欠缺は、組合員の適切な議決権行使を実質上困難ならしめるものというべきであって、これをもって軽微な瑕疵ということはできない。とりわけ、本件決議(一)2のうちの規約四四条(議決権)の改正は、従来、最小区分所有単位を一票とし、その所有する専有面積比割合により議決権の票数を算定していたものを、所有戸数、所有専有面積のいかんにかかわらずすべて一組合員一票にするというもので、組合員の議決権の内容を大幅に変更し、複数の票数を有していた組合員に極めて大きな不利益を課すことになる制度改革であるから、事前に各組合員に右改正案の具体的内容を周知徹底させて議決権を行使する機会を与えるように特に配慮することが必要である。しかし、本件においては、区分所有者は右通知において議決権条項の改正が審議され、決議されることは認識できたものの、その具体的内容を把握できなかったため、右のような重大な議決権内容の変更を伴う規約改正が行われることを事前に知ることができなかったものであり、その結果、五八票を有していた杉本建設、二四票を有していた日刊工業、二票を有していた横山勝男においては、その議案の重要性を認識することなく被控訴人に対し、川村理事長に一任する旨の委任状を提出したこと、しかし、右決議後まもなく右内容を控訴人から知らされて初めて決議内容の重大性を知って驚き、事前に知っていれば理事長に一任する旨の委任状を提出することはなかったとして、控訴人を通じて被控訴人に対し、委任を取り消す旨申し出ていたこと(第一、第二事件の甲三、五、六、一〇、証人松尾洋三、同赤木博)が認められる。そして、本件決議(一)2の議決が成立するためには区分所有者及び議決権数の各四分の三以上の多数の賛成が必要とされるところ(区分所有法三一条一項)、証拠(第一、第二事件の乙一)によれば、右各組合員らが一任の委任状を提出せず、これらの議決権数が賛成票に算入されなければ、議決権数六五七票の四分の三である四九三以上の賛成票を集めることはできず、右決議は可決されなかったことが明らかである。
以上の事実を勘案すれば、本件決議(一)2の決議については、重大な手続違反があり、これを無効と解するのが相当である。
なお、杉本建設、横山勝男においては、平成四年一月、本件総会(一)にあたって事前に被控訴人に提出した委任状の無効、取消を主張し、右決議の効力を否定することはしない旨の上申書、証明書を作成したことが認められるが(第一、第二事件の乙七、八)、証拠(証人赤木博、同松尾洋三)によれば、その趣旨は、その後、右のとおり改正された規約が再び改正され、以前のとおりの議決権の算定方法になったとのことであるので改めて問題にしないが、変更されていなければやはり問題視するというものであることが認められるところ、前記のとおり、被控訴人解散決議後の管理組合の規約において、所有戸数、専有面積比による議決権の算定方法が採用されているにすぎず、被控訴人の規約は現在においても本件決議(一)2の決議によって改正されたとおり組合員一人一票とされているのであり、杉本建設らがその旨理解した上で右手続違背を不問にする旨の上申書等を作成したとも認められないうえ、右杉本建設らの追認があってもなお賛成票は議決権数の四分の三に達しないから、これらが本件決議(一)2の決議を無効とする前記判断を左右するものではないというべきである。
また、控訴人は、本件総会(一)の招集手続における重大な違法により、本件決議(一)全体が無効になる旨主張するが、本件決議(一)1は、同2に先行して決議されたものであり(第一、第二事件の甲一、乙一)、その決議は従前の議決権条項に基づく議決権割合によってなされており、同2の議案についての要領の通知の欠缺が同1の被控訴人の解散決議について影響を及ぼすと解すべき特段の事情も見当たらないから、この点に関する控訴人の主張は採用しない。」
3 同一九枚目裏三行目の「本件決議(一)」を「本件決議(一)1」に改め、同四行目の「本件決議(一)の各議決が成立するためには、いずれも、」を「次に、本件決議(一)1の効力について検討するに、右1の議案が可決されるためには、」に改め、同五行目から六行目にかけての「三一条一項、」を削り、同七行目の「乙三、九」を「第一、第二事件乙三、乙九」に、同行の「一二月一日」を「一一月一二日」に、同九行目の「本件決議(一)3に」から同一二行目の「いずれの決議についても、」までを「本件決議(一)1には四名が反対したに過ぎず(第一、第二事件の甲一、同乙一)、さらに、控訴人が前記のとおり投票の有効性を争う九名(前記引用にかかる原判決「第二 事案の概要」(第一事件)の項参照。なお、共有者は区分所有法四〇条に基づき一名として数える。)を加えても、本件決議(一)1に賛成した組合員数は」にそれぞれ改め、同二〇枚目表八行目冒頭から同九行目末尾までを「そして、本件決議(一)1の決議は、議決権数六五七票の四分の三である四九三票を超える五〇四の賛成票により可決されているところ(前記争いのない事実)、控訴人は、右賛成票に投じられた議決権の一部は委任状の無効等により効力がなく、賛成票は四九三票に達しない旨主張するので、以下、検討する。」に改め、同一〇行目の「四 」の次に「杉本建設、日刊工業の」を、同二〇枚目裏二行目の「なかったこと」の次に「(なお、第一、第二事件の甲三号証、一〇号証には、杉本建設では赤木博が総会についての委任状の作成提出の権限を有しており、これを作成提出した三条弥栄子は無権限であるとの趣旨の記載があるが、右は証人赤木博の供述に照らし採用しない。)」を加え、同七行目冒頭から同一一行目末尾までを削る。
4 同二一枚目表二行目の「ある。」を「あるから、杉本建設が被控訴人に提出した、本件総会(一)議案の一切の議決権の行使を川村善次に一任する旨の委任状に基づき、川村が本件決議(一)1について投じた同社の五八票の賛成票は有効である。」に、同八行目から同九行目にかけての「本件委任は有効であると解される。」を「日刊工業が被控訴人に提出した、本件総会(一)の一切の議案につき議決権の行使を川村善次に一任する旨の委任状に基づき、川村が本件決議(一)1について投じた同社の二四票の賛成票は有効である。」にそれぞれ改める。
5 同一〇行目の「五 」の次に「杉本建設、日刊工業及び横山勝男の」を加え、同一一行目冒頭から同裏一〇行目末尾までを、次のとおり改める。
「証拠(第一、第二事件の甲六、控訴人本人)によれば、横山勝男は、本件総会(一)の開催案内を受けた後、その通知の議案の要領の記載から複雑な問題が議案に含まれていると予想し、棄権しようと考えていたところ、被控訴人理事者側の意向を受けたマンションの管理人南川から、再三、出席しなければ委任状を出すよう要請されたため、結局、総会には欠席することとして議案一切の議決権を川村善次に委任する旨の委任状を提出したことは認められるものの、南川その他被控訴人の関係者から、本件総会(一)には大した議題はない旨欺罔され、その旨誤信して右委任状を提出するに至ったとの事情を認めるに足りる証拠はない。
また、第一、第二事件の甲三号証、一〇号証には、杉本建設の三条弥栄子及び日刊工業の松尾洋三が、それぞれ被控訴人の理事から、本件総会(一)には大した議案はないから早く委任状を提出するよう要請されたとの記載があり、また、証人松尾洋三、同赤木博の供述中にも同趣旨の供述部分がある。しかし、他方、右赤木博は、委任状提出にあたって被控訴人からどのような働きかけがあったかについて、事務員が明確には記憶していない旨をも供述しており、また、同松尾洋三も、委任状提出にあたってどのように言われたか具体的な記憶はないが、出席しなければ委任状を出してほしい、棄権しないでほしいと言われた旨供述し、平成二年一一月に控訴人から、委任状提出の際の状況を質問されたのを受けて(第一、第二事件の甲四の1、2)作成した回答書(同甲五)には、被控訴人の担当者から欠席の場合は棄権しないで必ず委任状を出すよう要請された旨、その内容についての説明はなかった旨の記載があることに照らせば、前記甲三号証、一〇号証の記載、前同証人らの供述部分は必ずしも信用できず、他に、被控訴人の理事などが、松尾建設や日刊工業の担当者に対し、本件総会(一)には大した議案がないからと偽って委任状を提出するよう要請したとの事実を認めるに足りる証拠はない。加えて、本件総会(一)の開催通知(同甲二)には、「管理組合法人解散の件」と記載された本件決議(一)1についての議案の要領が記載されており、右1の議案に関しては右記載自体でその議案の重要性を把握することができるというべきであるから、たとえ、大した議案はないからとして委任状の提出を要請されたとしても、本件決議(一)1についての議案に関して被控訴人に欺罔行為があり、これを受けた組合員も大した議案はないとの錯誤に陥ったと評価すべき状況にはないというべきである。
結局、横山勝男、杉山建設、日刊工業が川村善次に一任する旨の委任状に基づき、川村善次が本件決議(一)1に投じた賛成票合計八四票はすべて有効である。」
6 同二二枚目表一行目の「条項は、」の次に「委任者の中には当然に区分所有者が含まれてしかるべきところ、その記載がないこと、また、」を加え、同三行目の「認めるべきである」を「認めるのが相当であり、右規則は代理人の資格制限を定めたものである」に、同四行目の冒頭に「ところで、」を加え、同七行目の「同法三〇条一項の規約によって」を「同法三〇条一項により規約によって」に、同八行目の「しかし、」から同裏八行目末尾までを「しかし、被控訴人の規約においては、議決権を行使する代理人については一切の資格制限をすることなく、議決権の代理行使を広く認めているから(昭和六三年一月三一日改正後の規約―第一、第二事件の乙の二、第三事件の甲二―四四条二号)、代理人の資格の制限は、本来、区分所有者及び議決権の四分の三以上の賛成による特別決議の手続を要する右規約の変更としてこれを行うべきものである。また、規則は、規約に定めない事項に限って、組合の業務に必要な細則及びマンションの居住、利用に関してこれを制定、変更することができるにすぎないところ(規約五五条)、議決権行使に関する事項は、規約に定めない事項ではなく、組合の業務に必要な細則にも、マンションの居住、利用に関する事項にも当たらない。
したがって、代理人資格を居住者や理事会に限るとした規則五四条の効力は認めることができないから、非居住者を代理人として、本件決議(一)1の決議に賛成票を投じた畑秀雄(四票)、飯野南海子(二票)、原寛(二票)の各票は有効である。」に、同一三行目の「本件決議(一)の各決議は、いずれも、」を「本件決議(一)1の決議は」にそれぞれ改める。
7 同二三枚目表二行目の末尾に行を改め、「なお、本件決議(三)の効力については、後記三の第三事件における判示のとおりであり、右決議の無効を理由とする本件決議(一)の無効の主張は理由がない。」を加える。
二 第二事件について
1 本案前の主張について
本件決議(二)1及び2は、本件決議(一)1の決議を再確認したものであるところ、右(一)1の決議が有効であることは前示のとおりであり、単に過去の事実として右有効な決議があることを再確認した決議は、それによって新たな法律関係を創成するものでないから、その存否及び有効無効を改めて確認する利益はないというべきである。
しかし、本件決議(二)3は、本件決議(一)の再確認の形をとっているものの、実際には本件決議(一)中で同趣旨の議決がされたことはない(第一、第二事件の甲一)から、その存否ないし効力を確認する利益はあるというべきである。
2 そこで、以下、本件決議(二)3ないし5について、その存否ないし効力を検討する。
(一) 総会招集者の招集権限の有無について
本件決議(三)の無効を前提として本件総会(二)が招集権限のない者により招集されたとする控訴人の主張が理由がないことは後記三の第三事件における判示のとおりである。
管理組合法人が解散したときは、規約に別段の定めのある場合または総会において他の者を選任した場合を除き、理事が清算人となり、清算人は現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、残余財産の引渡しその他職務を行うにつき必要な一切の行為をする権限を有する(区分所有法五五条三項、民法七四条、七八条)ところ、被控訴人は、本件決議(一)1の決議により解散し、川村善次が清算人とされたのであるから、以後、同人が清算手続終了までの事務の執行に必要な一切の権限を有することになったものである。
控訴人は、清算人の職権権限は民法七八条に列記された「現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、残余財産の引渡」に限定されており、総会の招集権限はない旨主張するが、右規定は清算人の職務権限のすべてを列挙したものではなく、主要なものを例示したにすぎないと解すべきであるところ、朝日九段マンションにおいては、本件総会(二)の招集当時、本件総会(一)における解散決議自体の効力やその後の処理、その他種々の事項について、控訴人等との間で紛争が生じており、被控訴人と控訴人との間に総会決議無効等多数の訴訟が係属し、あるいは今後係属することが見込まれていたのであるから(弁論の全趣旨)、その解決のために、川村善次が本件決議(二)の各1ないし5の議題を掲げ、これについて議決するために総会を招集したことは、清算手続終了まで存続する被控訴人の管理に必要な事項であるというべきであり、同人に本件総会(二)の招集権限があったことは明らかというべきである。
したがって、控訴人の、川村善次に本件総会(二)の招集権限がないことを理由とする本件決議(二)3ないし5の不存在確認請求(主位的請求)は理由がない。
(二) そこで、以下、本件決議(二)3ないし5の決議の効力(予備的請求)について判断する。
(1) 控訴人は、右各決議にあたって、規約に基づく定足数の確認や賛成者数を確認していない瑕疵がある旨主張する。
ところで、右決議は、いずれも組合員の過半数が出席し、その議決権の過半数で決せられるものであるところ(区分所有法三九条一項、規約四六条一項)、本件総会(二)の議事録(第一、第二事件の乙三)によれば、出席組合員数は一三六名(出席者三七名、委任状提出者九九名)で、総組合員数一六七名の過半数を超えていると認められ、これに反する証拠はない。したがって、本件総会(二)において定足数の確認を怠ったとの控訴人の主張は理由がない。
(2) 次に、本件決議(二)の3ないし5の各決議について、その賛成票をみるに、被控訴人は、右決議において、議決権の算定方法につき専有面積比から一組合員一票の議決権との算定方法に規約を改正する旨の本件決議(一)2が有効であることを前提にして、3及び4については反対二名で賛成多数、5については反対一名で賛成対数とみて、可決されたものと取り扱ったものであるところ(第一、第二事件の乙三)、右の規約を改正した本件決議(一)2が有効であることは前示のとおりであるから、これらの決議についても、各組合員が、最小区分所有単位を一票とし所有専有部分の床面積の割合で算定した議決権数を有することを前提に、過半数の賛成票を得ているか否かを検討する必要がある。
ところで、平成二年三月四日は、被控訴人の本件総会(二)に引き続き管理組合の定期総会が開催され、出席組合員、委任状提出者のいずれについても、同一のメンバーによって双方の総会が行われたものであるところ、管理組合においては議決権に関する規約を改正前の被控訴人規約と同様の専有面積比割合による議決権算定方法によることにしており、右算定方法に基づき本件決議(二)3と同趣旨の議案が2号議案として、同4と同趣旨の議案が6号議案として、同5と同趣旨の議案が8号議案として提出されていること、出席ないし委任状を提出した一三六名の専有面積比割合に基づく議決権は合計五〇七票であり、2号議案は反対が一名、6号議案は反対が一名、8号議案は反対者が四名、合計一〇四票であり、いずれも賛成多数として可決されていることが認められる(第一、第二事件の乙四、五)。
右事実に照らせば、右管理組合の総会の直前に開催された本件総会(二)における本件決議(二)3ないし5についても、その反対者の票数及び棄権者の有無は明確ではないものの、専有面積比割合による出席者の総議決権の過半数の票を得たものと推認するのが相当である。
(3) 本件決議(二)3は、「被控訴人の本件総会(一)の解散時における財産一切が、解散決議によって成立する管理組合に移転したことの確認及び移転の再決議」というものであるところ、控訴人は、被控訴人の解散決議後、区分所有者全員からなる団体(区分所有法三条前段)が活動するためには、規約を定め、管理者を選任する等の一連の手続が必要であって(同法二五条、三四条五項)、右解散決議により当然に、法人化する以前の「朝日九段マンション管理組合」が成立するものではない旨、また、解散した管理組合法人の財産は、規約に別段の定めがある場合を除いて、専有部分の床面積割合によって区分所有者に帰属するのであるから(同法五六条)、被控訴人から管理組合へ財産を移転する旨の内容の本件決議(二)3は、その内容において違法であり無効である旨主張する。
しかし、管理組合法人の集会決議による解散は、区分所有者の団体が存続する基礎がなくなった場合である、建物の全部の滅失、建物の専有部分の消滅の解散事由(同法五五条一項)とはその性質が異なり、単に法人格を喪失させる手続にすぎないのであって、解散後もなおその基礎である団体の実体はなお存続し活動を続けるものである。したがって、決議により解散すると同時に法人格を取得する以前の組織としての区分所有者の団体が復活するものというべきであり、控訴人主張のように、新たに区分所有者の団体である管理組合を結成するような手続は必要なく、法人格がない管理組合が法人格を取得する場合(同法四七条五項)と同様に、法人格の存在を前提とする事項を除いては、解散時における法人の規約、決議は、別段の定めをしない限り引き続き解散後に成立する区分所有者の団体においてその効力を有するものというべきである。そして、その財産も、右団体の構成員でもある各区分所有者に払い戻す実益はないから、同法五六条にかかわらず、規約において各区分所有者に現実に払い戻す等の別段の定めがない限り、そのまま右団体の財産となり、その管理に服すると解するのが相当である。
そうすると、解散決議後の財産の処理等について規約に特別の定めがない本件においては、解散決議により、法人格を取得する以前に存在していた管理組合が復活し、なんらの決議も経ることなく、当然に、解散時における被控訴人の財産を引き継ぐものというべきであり、財産移転に関する前記決議は適法な内容の決議であり有効というべきである。控訴人の前記主張は、独自の見解であり、採用できない(なお、右決議は、解散決議後直ちに当時の被控訴人の財産一切を管理組合に移転したことを確認し、ないし改めて右移転を行うとの趣旨のものであるところ、管理組合に帰属するのは、解散決議後清算事務が終了した後の残余財産と解するのが相当であるから、右決議は財産の管理組合に帰属する時期及びその内容を決議した点に意味があり、解散決議による当然の効力を確認したにすぎないというものではないから、このような決議をすることに法的な意味がないとはいえない。)。
(4) なお、本件決議(二)4は、「平成元年一一月一二日開催の臨時総会で池田正が監事に選任されたことの確認及び選任の再決議」という議案であるところ、池田正を監事として選任した総会は管理組合の臨時総会であり、池田正は被控訴人の監事として選任されたものではないことが認められるから(第一、第二事件の乙九)、右議案が、被控訴人の監事として選任されていることを前提とする確認部分は無効というべきであるが、右を池田正を被控訴人の監事として新たに選任する議案としてみる限りなんら不都合はないというべきであるから、右4の決議を無効とすべき理由はない。
(三) 以上のとおり、本件決議(二)3ないし5はいずれも有効と認められ、控訴人の右各決議の無効確認請求は理由がない。
三 第三事件について
1 本案前の抗弁について
被控訴人は、理事等役員の任期は次回の定期総会終了時までとされているから(規約三四条)、控訴人の理事辞任の意思表示の有効無効にかかわらず、その後、再び理事長として選任されない以上、既に理事長としての地位は失っていることは明らかで、理事長の地位にあったとの過去の事実を確認できるにすぎないから確認の利益はない旨、また、本件選任決議(三)により役員になった者の任期も満了しているから、右決議の無効を確認する利益もない旨主張する。
しかし、控訴人が被控訴人の理事長であることの確認を求める訴えは、あくまでも現在の法的地位の確認を求める訴えであるから確認の利益は否定できない。また、本件決議(三)の効力いかんによっては、右決議により選任された理事の中から選出された理事長が招集したその後の総会(本件総会(一)、(二)を含む。)における決議の効力に影響が及ぶものと解せられるから、本件決議(三)の効力についての確認の利益は現在もあるものといわざるを得ない。
したがって、被控訴人の前記主張は理由がない。
そうすると、本件決議(三)の無効確認を求める訴えを確認の利益がないとして却下した点に関する原判決は取消しを免れず、このような場合原則として右部分につき事件を第一審に差し戻すことになるが(民訴法三八八条)、本件においては、本件決議(一)、(二)の無効事由として本件決議(三)の無効が主張されているから、本件決議(三)の効力については当審で実体判断を加えざるを得ないのであり、その関係からいって右部分についてもこれを差し戻すことなく当審で実体判断を行うべきものと解するのが相当である。
2 そこで、以下、控訴人の右各確認請求が理由があるか否か検討するに、控訴人は、本件総会(三)における理事就任の意思表示は錯誤に基づくから無効であるとの理由で、現在、理事長の地位にあることの確認を求めているが、役員の任期は次回の定期総会(毎年二月開催)終了時までであるから(規約三四条)、現在、理事長の地位にあるためには本件総会(三)における控訴人の理事を辞任する旨の意思表示の無効だけでは足りず、その後に新たに理事長に選任されていることが必要であるところ、控訴人は、辞任の意思表示が無効であると主張するのみで、現在も理事長の地位にあることを基礎づける事実についてはなんら主張、立証していない。
したがって、控訴人の右確認請求は理由がない(なお、控訴人の右請求が、理事が欠けた場合において控訴人が退任した理事として理事の職務を行う地位にあること(規約三四条二項、区分所有法四九条六項)の確認を求める趣旨をも含むとしても、本件決議(三)による被控訴人の理事の選任が有効に行われたことは後に判示するとおりであるから、右請求を容れる余地もない。)。
3 次に、本件決議(三)の効力について検討する。
(一) 控訴人は、本件総会(三)における控訴人の不信任決議が、事前の被控訴人側の控訴人に関する誹謗中傷、虚構の事実の宣伝を信じた組合員の提出した委任状等を用いて集めた賛成票によるものであるとして、不信任決議は組合員の錯誤に基づき無効であるからこれを前提とした控訴人の理事の辞任もまた錯誤により無効であり、したがって後任の理事等を選任する本件決議(三)も無効である旨主張する。
しかし、本件総会(三)の開催以前において、控訴人が理事長として推進していた、本件朝日九段マンションのハイテク化計画に反対する一部の区分所有者らが、反対運動を行い、居住者らに対し、控訴人が私利私欲のためにハイテク化計画を推進しているとしてこれを非難する趣旨のビラを配付したことがあることは認められるものの(第三事件の甲九、一〇)、本件総会(三)における控訴人の理事長不信任決議において、これに賛成票を投じた組合員が右投票が錯誤に基づくものであるとして無効を主張している事実や、その結果、賛成票が可決要件である出席組合員の総議決権数の過半数に達しない事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、右総会以前の昭和六三年六月一四日開催の理事会において、それまでの控訴人の議事進行、理事会の運営等に対して生じていた組合員らの不満を背景として理事長不信任案が提出され、討議されたこと、その際、規則上は、この場合、本来、直ちに議事を中止し、理事長の再選をしなければならないのにかかわらず(規則七五条一二項)、不信任案は四分の三の賛成票によって可決するものと誤信した理事が採決し、決着をつけることができなかったことから本件総会(三)において右不信任案の議案が提出されたこと、右議案に対しては、議長であった控訴人や右理事会で不信任案を提案した理事からその背景や経過説明が行われ、賛成反対両派からの意見表明の後に、控訴人から弁明がなされ、審議されたが、辞任を要求する組合員も多数あり議事が紛糾したこと、右議案の採決方法、白紙委任状の効力を巡っても紛糾した末、議長である控訴人が実際に出席した組合員が出席票に信任、不信任を記載して提出する方法により採決することを提案し、その旨決定したこと、右方法による採決の結果、不信任案が可決されることになり、控訴人が理事長を辞任し理事全員も自発的に辞任したことが認められるのであり(第三事件の甲一二、乙二、六、弁論の全趣旨)、右事実によれば、右採決にあたっては十分に時間をかけて議案の背景、賛否両方の意見等が明らかにされた上で採決がなされているのであるから、不信任案に賛成した組合員が錯誤に基づいて投票したと窺われる状況にはないことが窺われる。
結局、控訴人の、不信任案決議が錯誤により無効であることを理由とする本件決議(三)の無効の主張は理由がない。
(二) 次に、控訴人は、被控訴人が主張するように、本件総会(三)の出席者の総議決権数が四一五票、その過半数が二〇八票とする根拠がないとし、また、不信任とした票の中には無効票があり右の総議決権数の過半数を満たしていない旨主張する。
しかし、本件総会(三)の議事録(第三事件の乙六)には、当時の総組合員数は二三七名、右総会に実際に出席した組合員は七五名で議決権数二三七票、委任状提出者は六七名で議決権数は一七八票、総出席者は合計一四二名、その総議決権数は四一五票との記載があるところ、後記藤田成範、大野安夫に関する疑問点を別にすれば、これを覆すに足りる証拠はないから、一応議事録記載のとおりの出席者数及び議決権数があったものと認められる(なお、六〇七号室の組合員である藤田成範(四票)は委任状(第三事件の乙八の70)を提出しながら当日出席もしており(同乙八の61)、六〇八号室の大野安夫(三票)は後記のとおり二通の出席票を提出していることが認められるところ、前記の出席者数や総議決権数はこれらの者を重複して数えているおそれもあるが、以下の検討においては、ひとまず重複せずに右のとおりの総議決権数が確保されているものとの前提で過半数の票数を検討することとする。)。
そうすると、理事長不信任案を可決するには少なくとも出席者の総議決権数四一五票の過半数である二〇八票の賛成票が必要であったと認められるところ、出席票(第三事件の乙八の1ないし69)及び議決権一覧票(第三事件の乙七)によれば、不信任は出席票数五九名で二一二票、白票は出席票数六で一九票、信任票は出席票数三で一五票と認められる(六〇八号室の大野安夫は不信任と記載した出席票と白紙の出席票とをともに提出しているから(前掲乙8の39、49)、同人の意思は不明として無効票とするのが相当である。また、山野辺の出席票には、七一一号室としか記載されていないが、弁論の全趣旨により、同人は他の部屋も所有し、票数は合計七票であると認められる)。なお、右議事録には、実際に出席した七五名の組合員の投じた票のうち、白票が六人でその議決権数が一八票、信任が三人でその議決権数一七票、不信任が六一人でその議決権数が二二六票との記載がされているが、右数字には過誤があると認められ、出席票に基づく右計算結果を覆すに足りない。
控訴人は、右不信任投票のうち、一一〇三号室、三一四号室、一一一二号室、六〇一号室及び四一二号室の投票者は組合員ではなく(合計一三票)、また、九〇六号室、七一一号室、七〇一号室の出席票には投票者名を姓しか記載しておらず、組合員かどうか判定できないから(合計一五票)、いずれも無効である旨主張する。
しかし、証拠(前掲乙八の8、12、27)及び弁論の全趣旨によれば、一一〇三号室、三一四号室、一一一二号室の各出席票に氏名を記載した者は、各区分所有者の配偶者であって、組合員本人の代理人として議決権を行使しているものと認められ、また証拠(前掲乙八の51)及び弁論の全趣旨によれば、四一二号室については法人である区分所有者の代表取締役が個人名を記載したにすぎないものと認められるから、これらを有効票と扱うことになんら問題はないというべきである。
さらに、右のとおり、組合員の家族が出席し、議決権を行使している場合には、組合員の代理人として権利を行使しているものとみるのが相当であるから、出席票に姓しか記載していなくても、その投票を組合員またはその代表権を有する家族の者によるものとして、有効票と扱うことになんら問題はないというべきである。
以上によれば、理事長不信任決議は、委任状に基づく議決権の行使結果を考慮に入れるまでもなく、出席者の総議決権数の過半数である二〇八票以上の賛成票を得ていることが明らかであるから有効である。
なお、前記藤田成範、大野安夫の出席及び投票が重複して数えられているとした場合、総出席者数は一四〇名、その総議決権数は四〇八票となり、その過半数は二〇五票であるから、右不信任決議が有効であることに変わりはない。
したがって、右不信任決議を可決するに足りる賛成票はなかったことを理由とする理事辞任の意思表示の錯誤による無効及び本件決議(三)の無効の主張も理由がない。
第四 結論
以上によれば、控訴人の本訴請求のうち、第一事件について本件決議(一)2の決議が無効であることの確認を求める部分は理由があるものとして認容すべきであり、右部分について結論を異にする原判決を一部変更することとする。第三事件について、本件決議(三)の無効確認を求める部分は理由がないが、原審は右請求につき訴えを却下しているので、不利益変更禁止の原則により、当審では控訴を棄却するにとどめる。第一事件につきその余の決議の無効確認を求める請求は理由がなく、第二事件につき本件決議(二)1及び2記載の各決議の不存在確認を求める請求(主位的請求)、無効確認を求める請求(予備的請求)は確認の利益がなく、本件決議(二)3ないし5の不存在確認ないし無効確認を求める請求及び第三事件につき控訴人が理事長であることの確認を求める請求はいずれも理由がないから、これらの部分に関する控訴人の本件控訴を棄却する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 鬼頭季郎 裁判官 三村晶子)
別紙本件決議(一)
1 第三号議案
朝日九段マンション管理組合法人の解散、及び法定清算人として川村善次の選任
2 第四号議案
朝日九段マンション管理組合規約・規則の改正
(一) 使用規則改正第一六条(保険)
「損害の保障を受けた組合員は保障額の一〇パーセントを管理組合に納入する」を加入する。
(二) 規約改正
第二三条(近隣関連事項)
第2項②を削除する。
第四二条(総会)
第2項「理事長は総会の議長を努める」を削除する。
第四四条(議決権)
第1項を削除して「所有個数及び専有面積に拘わらず、組合員は一票の議決権を有する。」に改訂する。
第四九条(理事会)
第3項に「理事の過半数が理事会の開催を請求したとき理事長は理事会を招集しなければならない」とする。
第4項に「理事長は副理事長を選任することが出来る」とする。
なお、条項の3項が5項に、4項が6項、5項が7項に変更となる。
本件決議(二)
1 第一号議案
本件決議(一)で被告が解散したことの確認、及び解散の再決議
2 第二号議案
本件決議(一)で川村善次が清算人に選任されたことの確認、及び選任の再決議
3 第三号議案
本件決議(一)で、被告の平成元年二月一九日の解散時における財産一切が、解散決議に成立する朝日九段マンション管理組合に移転したことの確認、及び移転の再決議
4 第四号議案
平成元年一一月一二日開催の臨時総会で池田正が監事に選任されたことの確認、及び選任の再決議
5 第五号議案
原告が、被告を相手方として訴えている別紙事件一覧表に記載した事件及び今後訴えを提起する事件について、被告が原告に弁護士費用その他の損害金の請求訴訟を提起する件及びその訴訟に要する費用を支出する件の決議
本件決議(三)
第二号議案 川村善次外一二名の理事選任決議
事件一覧表
原告
被告
裁判所
事件番号と訴名
進行状況
1
吉田武明
朝日九段マンション
管理組合法人
代表清算人
川村善次
東京地方裁判所
第8民事部
平成元年(ワ)第6185号
集会決議無効確認の訴
次回
平成2年3月26日AM10:00
2
吉田武明
奥村 敏昭
外16名
東京地方裁判所
第12民事部
平成元年(ワ)第16083号
管理組合不存在確認
請求事件
第1回
平成2年3月26日AM11:00
3
吉田武明
朝日九段マンション
管理組合法人
代表清算人
川村善次
東京地方裁判所
第8民事部
検査人選任の上申事件
審問
①平成2年2月23日PM2:30
② 同 年3月30日AM10:30
4
吉田武明
朝日九段マンション
管理組合法人
代表清算人
川村善次
東京地方裁判所
第8民事部
平成2年(チ)第1号
清算人解任の申立事件
審問
①平成2年2月23日PM2:30
②同 年3月30日AM10:30
①
吉田武明
朝日九段マンション
管理組合法人
代表清算人
川村善次
東京地方裁判所
第8民事部
平成元年(ヨ)第2099号
臨時総会開催禁止
仮処分申請事件
平成元年11月9日 審尋
同年同月13日 吉田武明氏の取下により終了